年齢を重ねるすてき

美術家、篠田桃紅さんはアメリカで墨のアートの創作活動をしていたそうだがやはり日本とは違うそうで



水墨というマテリアルがアメリカの風土に合わないのです。湿気が少ないでしょ。さーっと一筆描いた時、少しにじんでいくことを予定しているのですが、それがない。さっと乾いちゃう。作品の、表現の幅が浅いのです。バスルームのシャワーを出しっぱなしにして一生懸命部屋をしめらせましたが、とうてい追いつくものではありませんでしたね。
 反対にオイルペインティングは日本ではだめみたい。絵の具が乾かないから色が冴えないのでしょうね。光線も違います。日本から持っていった和服をあちらで着てびっくり。あら、この着物こんな冴えた色だったかしらって。
 アートもそれぞれの土地の風土や歴史の裏付けで成り立っている面があります。でも私はなるべくだれもが共通に持つ価値観で、教養の高い人も、そうでない人もいいなあ、きれいだなあ、と思うような作品がいいと思いますね。
 一部の人に愛されればいいとか、もっと極端に発表なんてしなくていいという考え方もあるますよね。でもそれでは満足できないから、展覧会を開いて人に見せるのだと思うのよ。人に伝えたい、同感者を得たいというのは本能かしら。その延長上に芸術はあるのだと思います。
2011年10月14日金曜日・朝日新聞夕刊「人生の贈り物」より



鳥肌が立ちました。