本当に感動した時はその理由を説明できない

ある日、私は何気なくテレビを見ていた。番組が変わりバレエ公演が流れ始めた。ドンキホーテである。主役のキトリを踊っている人はやけに上手いな…。うん…。これはすごすぎるんじゃないのか…!

これが私とパリ・オペラ座のバレエダンサー、オーレリ・デュポンとの出会いであった。私は小さい頃すぐ踊り出してしまう子供だったらしく、何年かバレエを習っていた。ただ踊るのが楽しいだけの私はプロの厳しいレッスンについていけず辞めてしまったのだが、やはりバレエは憧れである。小さい頃に刷り込まれた記憶はずっと残ると言うけれど、自分にとってふわふわしたチュチュやきらびやかな衣装、そしてくるくる回るバレリーナにはどうしても心ひかれてしまう。

オーレリの目線、手足の使い方、そして正確な技術はどうしても私のツボど真ん中でその日から彼女のファンになってしまった。ちょうどテレビで発見したのは受験勉強の真っ只中だったので、息抜きには録画したドンキホーテを見続け、受験が終わってからは少ない生活費からオーレリのDVDを買いまくった。

そして先日、ついに生の舞台を見てきました。かなり頑張って取ったかなり高い席だったけれどもそんなことは何でもないのだ。あの日から5年。本当はパリで見たかったけれどもフランスを訪れる機会はなく、そして日本公演は引退前最後だというので上野に行ってきた。

鳴り止まない拍手。本当にあのオーレリが踊り、踊って、そして終わって。椿姫は濃そうで本当はドンキホーテが良かったのだけれどもそんなことは吹き飛んだ。彼女は確かにマルグリットであって、私はマルグリットの人生を体験した。拍手をしながら自然と涙が出てきて、私は今までとは違う感じがした。技術が確かだからすごい、そんなものを超越して、私は何故かすばらしいと確信した。会場の人全員をオーレリはマルグリットの世界につれて行き、身体を使い踊りでマルグリットの喜び悲しみ全てを表現した。

カーテンコールを10回くらい重ねてオーレリが手をふり拍手は鳴りやんだが、回を重ねるごとに立つ人が増えて最後はスタンディングオーベーションとなって、私は生きてきたなかで観客がこんなに興奮しているのを初めて見た。

そして、オーレリ・デュポンは、一言も、喋ってはいないのだ。