たのしいムーミソー家

 ある灰色にくもった日のことです。ムーミンたちの住む谷間に、その冬での初雪がふってきました。
 雪はしずかにふりつもって、みるみるうちに、なにもかも、まっ白にうずめてしまいました。
 ムーミントロールは、戸口に立って、谷間がまっ白い冬の毛布でおおわれていくのを、じっと見ていました。ムーミントロールは、心の中で思いました。
「いよいよ今夜は、きっとぼくたち、長い冬のねむりにつくんだぞ」
 ムーミントロールたちは、だいたい十一月には、冬眠にはいります。冬の寒さと、暗い長い夜をすかない人たちには、これはうまいやりかたではないでしょうか。
 そっと戸をしめて、ムーミントロールは、おかあさんのところへいくと、いいました。
「雪がふってきましたよ、おかあさん」
「知っていますよ」
と、ムーミンママはいいました。
「わたしはもう、おまえのねどこを、
とてもあったかい毛布で、用意しておきましたよ。おまえは、スニフといっしょに、屋根うらの小さなへやでねむるのよ」
「でも、スニフはとてもひどいいびきをかくんだもの、いやだなあ。スナフキンといっしょにねてはいけないの」
 と、ムーミントロールはいいました。
「おまえのすきいにしていいよ、ぼうや。そんならスニフは、東のへやでねればいいもの」
 こう、ムーミンママはいいました。
 それから、ムーミン一家は、なかよしのお友だちや、知り合いをまねいて、長い冬をむかえるための、さかんな宴会を開きました。
 ムーミンママは、みんなのために、ベランダにテーブルをならべました。でも、テーブルにだすものといっては、もう松葉しかありませんでした。冬じゅうゆっくりとねむろうと思ったら、おなかにどっさり松葉をつめこんでおくことが、なによりもたいせつなんです。
 松葉では、あんまりおいしくはなかったろうと思うのだけれど、夕飯はたのしく終わりました。それからみんなは、おたがいにいつもよりすこしていねいに、
「では、お休みなさい」
 といいあいました。
「みんな、よく歯をみがかなくちゃだめよ」
 と、ムーミンママは、みんなにいいきかせました。
 それから、ムーミンパパは、家じゅうを見まわって、戸や窓をしめ、シャンデリアの上には、かやをかけました。――ほこりがたまらないようにね。
 それからみんなは、めいめいのベッドにもぐりこんで、ぐあいよく丸まると、耳の上まで毛布をひっぱりあげて、心の中で、なにかたのしいことを考えるのでした。
 ところが、ムーミントロールは、ほっとため息をついていいました。
「いやだなあ。ぼくたち、時間をうんとむだにしちまうんじゃない?」
「心配するなよ。きっとぼくたち、すばらしいゆめを見るぜ。そうして、こんど目がさめたときには、もう春になっているんだからね」
 と、スナフキンは答えました。
「むにゃむにゃ・・・・」
 ムーミントロールは、なむたそうになにかつぶやきましたが、そのときにはもう、うっとりとゆめの世界に運ばれていったのです。
 外では、しきりに雪が、やわらかく、あつく、ふりつもっていきました。もう、げんかんの階段をうずめ、屋根や、のきからは、重たくたれさがっていました。
 まもなくムーミンたちの家は、一つの大きな雪だるまみたいなものになってしまうことでしょう。
 とけいも一つまた一つ、チクタクいうのをやめていきました。冬がきたのです。



ヤンソン山室静訳『たのしいムーミン一家』(講談社文庫、1978年)9-12頁。